
佐々木 裕介(弁護士・行政書士)
「失敗しない子連れ離婚」をテーマに各種メディア、SNS等で発信している現役弁護士。離婚の相談件数は年間200件超。協議離婚や調停離婚、養育費回収など、離婚に関する総合的な法律サービスを提供するチャイルドサポート法律事務所・行政書士事務所を運営。
ごめんなさい、サザエさんと、マスオさんは離婚していません!!
ただ、現実「離婚しよう!」「離婚したい!」と考えても具体的に何をどのように進めたらいいのか難しいものです。
そこで、家族構成など違うところは多々あると思いますが、日本人なら誰もが知っている「磯野家」のサザエさんがマスオさんと離婚したと仮定して離婚届を出すまでに何を考え、何を決めたらいいのかを見ていきましょう。
これより下記の文はすべて想像と仮定です。
サザエ24歳(専業主婦)
マスオ28歳(海山商事 年収推定540万)
タラオ3歳
婚姻年数は5年程度(マスオが早稲田大学卒業後、23歳で結婚と推測)

サザエとマスオは性格が合わない!
40年間にわたり離婚理由の第1位は、「性格が合わない」ということをご存じですか?実は、夫婦は仲が良さそうに見えても、サザエさんと、マスオさんも性格や価値観が合わなかったようです。夫婦の仲は他人にはわからないものです。
サザエさんからしてみれば、マスオさんは飲みに行く回数が多い。帰宅時に酔いつぶれすぎている。最近はお小遣いの範囲を超えているのではないか?と我慢の限界でした。
マスオさんからしてみれば、そろそろ同居関係が辛い、玄関に近い部屋が夫婦とタラちゃんの部屋だが、明らかに居心地が悪い、しかしそれをいいだすことは到底出来そうもない、その上、サザエさんは財布を忘れるなど落ち着きがないから困っている、最近は会社の年上女性などを見ると「自分の結婚は間違っていたのではないか?」などと思っていました。
そこへ、アナゴさんといつものように飲みに行って帰りが遅くなったマスオさんは、カツオを叱るような言い方でサザエさんに強く怒られ喧嘩になります。喧嘩の収集がつかず、日頃のうっぷんから翌朝サザエさんは今まで我慢していた離婚という決断を考えます。タラちゃんの寝顔を見ると、「そんな簡単に離婚することがいいことなのか?」と自問自答しますが、しかし、隣で寝ているマスオさんの寝顔に腹が立ち、離婚への気持ちに一気に火が付き、離婚することを決意します。そして、マスオさんも離婚に同意します。
今回離婚を先に考えたのはサザエさんですが、マスオさんも離婚することに反対しなかったため、互いに離婚届に署名をして、役所に離婚届を出しに行くことにしました。このような方法の離婚を協議離婚といいます。協議離婚とは、夫婦のみで話し合い、離婚条件などを決め役所に離婚届を出すことにより成立する離婚のことです。
しかし、サザエさんだけが離婚したい、マスオさんだけが離婚したいと思っていて、話し合いがまとまらない場合は離婚調停を申し立てるという選択肢もあります。ただ、相手が同意しないからと易々と調停離婚を考えると後悔するかもしれません。調停離婚は月1回平日のみの開催となります。その為、必然的に時間がかかります。なにより、離婚を決めてくれる場ではありません。互いの意見を尊重し、譲歩を促し、お互いの意見をすり合わせていく場です。その為、当初考えていた離婚条件では離婚できなくなることもあります。また、調停離婚でも話がまとまらない時は、裁判をすることで離婚の話をまとめます。
夫婦の話し合いで離婚条件を決めて離婚届を出す方法を協議離婚といいます。
夫婦間の話で折り合いがつかない場合は、調停に申し立てをして離婚をまとめます。この方法を調停離婚といいます。調停離婚でも話がまとまらない場合、裁判を申し立てます。この方法を裁判離婚といいます。

日本では全体の88%が協議離婚をしています。
サザエさんもマスオさんも当初は互いに離婚することに戸惑いも感じたものの、まだ若い、いまなら再出発に遅くないと離婚することを改めて決意し、協議離婚をすることにしました。

タラちゃんの親権はどうするの?
離婚届には必ず子供の親権を決めて記入しなければいけません。親権の欄に記入がないと、離婚届は役所で受理されません。実は、養育費や面会交流については決めなくても離婚ができます。さらには財産分与なども決めていなくても離婚することができます。しかし、親権については決まっていないと離婚できません。さて、タラちゃんの親権ですが協議離婚の場合、夫婦で自由に親権者を決めることができます。
つまり、サザエさんもマスオさんも親権者になることができます。
サザエさんは今後働きに出なければいけなくなるでしょう。そんな時、フネさんにタラちゃんを預かってもらえるか確認し、自分がいない時はカツオやわかめにも協力してもらえるよう相談をしました。突然の離婚の話に家族一同驚愕し、波平さんやフネさんは考えを改めるよう説得しましたが、サザエさんもマスオさんも聞き入れませんでした。カツオは「なんかわかる気がするな~」などと大人びたことをいい、わかめは泣いてしましました。タラちゃんは状況がつかめませんでした。しかし、どんなに日がったても考えを変えないサザエさんとマスオさんの意見を波平さんとフネさんは受け入れ、同意はしないものの、次第に反対をすることもやめるようになりました。
そして、フネさん達の理解もあり、離婚後のタラちゃんの親権者はサザエさんがなることに皆が同意しました。マスオさんは、タラちゃんとは離れて暮らすのは寂しいと離婚への決意が揺らぎましたが、「男に二言はない!!」と決意を固め、男手一人でタラちゃんを引き取り、寂しい思いをさせることなく育てることはなかなか難しいと親権を断念しました。
波平さんとフネさんは、なだかんだ言っても二人は離婚しないだろうと考えていましたが、親権の話や今後の相談を受けることで次第に二人は離婚するんだなと、それならばできる限りタラちゃんのことは協力してあげようと、考えが変わってきました。
離婚時は周囲を説得できるようにしましょう。たとえ反対されても離婚する!!説得できるまで頑張る!!というくらいの気概がないと、今後の生活は苦難の道かもしれません。なぜなら、離婚後一人で子供を育てていくということは決して楽なことではないため、必ず周囲の協力が必要になるからです。
離婚をした後のことも考えて身近な人に相談したり協力を得られる状態にしておくことは大切なことです。例えば、子供が小さい時は熱を出したり、感染症にかかったりと、仕事に出られなくなることが必然的に起こります。そのような状態になったとき仕事休めるのか?休めない時は誰に子供を預けるのか?なども前もって考えておくことで慌てず対応できます。これらのことを考えるうちに、やはり離婚は時期尚早とかんがえるのであれば、それもまた一つの結論でしょう。
病児保育について

ところで、病児保育という制度はご存じですか??
保育園に通っている子供が病気になった時、仕事を休めない親に代わって病気の子供の世話をするサービスのことです。これは一つの例ですが、このようなサービスの中でどれが自分に合っているかなど考えて登録しておくのもよいでしょう。
離婚協議書とは
サザエさんとマスオさんは離婚するために、二人で離婚届を役所に提出するため出かけました。その道すがら、ノリスケさんに出くわし事の成り行きをはなすと、ノリスケさんに「離婚届」を提出する前に「離婚協議書」を作成することを勧められます。ノリスケさんの話では、知り合いの夫婦が離婚条件を決めず、急いで離婚届をだしたため、離婚後何も決まっていないことで大変なことになったというのです。
離婚することがきまったら、離婚届を提出する前に離婚協議書を作成することをお勧めします。離婚協議書は、夫婦が離婚する際に、諸条件を取り決めるために作成する書面です。具体的には、夫婦が共有していた財産や持ち物、婚姻期間中に共同で使用していたものなどの分け方が記載されます。また、離婚後も子供を育てていく親は、子供とともに暮らさない親から養育費を貰います。これらの詳細な事項を記載したものが離婚協議書となります。
サザエさんとマスオさんは一旦家に戻り、離婚条件を決める事にしました。
一般的に下記のような事柄を記載します。
記載内容
・財産分与(不動産、預貯金に関すること)
・養育費(子供の生活費全般に関すること)
・面会交流(子供との面会について)
・慰謝料(不貞、DV等に関すること)
・年金分割(年金の分割方法に関すること)
・婚姻費用(別居中の生活費に関すること)
・清算条項(その他請求権がないことを示すこと)
サザエさんとマスオさんの場合だと、預貯金・養育費・面会交流・年金分割・清算条項が必要ですね。
財産分与
財産分与は夫婦の財産をどのように分割するかを決めます。協議離婚の場合どのように分割するかは夫婦の自由です。夫婦で婚姻中に得たあらゆる財産が対象です。貢献度は夫婦ともに通常は2分の1というのが原則です。収入を得ていたのが夫のみで、妻が専業主婦の場合でも、財産は二人のもので貢献度も半分ずつです。つまり、サザエさんは預貯金の半分を貰う権利があるということになります。共有財産がどこにどのくらいあるかしっかり把握しておきましょう。(預貯金、不動産、積立型保険、有価証券、借金などがあります)
養育費
養育費の支払いは子供の生活を守るための義務です。未成年の子供を世話して育てるのは、父母それぞれの義務であり、それにかかる費用、つまり養育費もまた父母が負担します。養育費は子供の権利です。しかし、実際は養育費の取り決めをせず離婚するケースが多く、養育費をもらえていないケースが多いのが現実です(令和3年調査によると母子家庭のうち養育費を受給できている割合は28%に過ぎません)養育費の相場が分からない場合は裁判所のHPにある養育費算定表を参考に養育費を決める方法もあります。協議離婚であれば養育費の金額は夫婦が自由に決められます。
マスオさん達は養育費算定表を基に、月々7万円の養育費をサザエさんの銀行口座に支払うことを決めました。
面会交流
離婚で離れて暮らすことになった親にも、子供と会ったり連絡を取ったりすることが認められています。これを面会交流といいます。これは親の権利かつ子供の権利です。マスオさんはタラちゃんと頻繁に会いたいと考えていたため、月に2回、近所の公園や公共施設で会うことを決めました。時間や場所は毎回連絡を取り決める事にしました。面会交流に関しては、会う場所、会う時間、また宿泊やプレゼントなどに関しても細かく決める事ができます。ただ、マスオさんとサザエさんはタラちゃんの成長と今後の互いの関係に合わせ、その都度話し合いの場を設け決めていくことに決めました。
年金分割
年金分割は、夫婦が婚姻中に納付していた厚生年金保険料の記録を離婚時に分割して、その付替を手続きできる法律で定められた制度です。これはあくまでも双方の年金記録を変更する手続きです。つまり、実際に年金を受給できる時期になって、離婚の際に年金分割相当分が納付済みの年金記録に反映されていると、より多くの金額の受給が可能になります。
年金分割には合意分割と3号分割の2種類があります。サザエさんは専業主婦の為3号分割に該当します。3号分割は対象となる期間を、2分の1ずつで分割します。分割の手続きをすれば相手の合意は必要ないので一人で手続きができます。ただ、2008年4月以降の年金が対象となるので注意しましょう。


清算条項
清算条項とは、将来お金のトラブルを防ぐために、離婚協議書で合意した内容以外は今後一切お金の請求はしないということに合意する旨の条項です。
第〇条(清算条項)
甲及び乙は、以上をもってすべて解決したものとし、今後、財産分与、慰謝料等名目の如何を問わず、相互に何かの財産上の請求をしないことを約する。
上記のような一文を離婚協議書に入れることで、サザエさんはマスオさんに、マスオさんはサザエさんに離婚後一切お金の請求は出来なくなります。
離婚協議書を作成する
離婚協議書の作成に関して、書式等に決まりはありません。その為、夫婦間で作成することができます。ただ、内容によっては離婚協議書が無効になるので注意しましょう。たとえば、社会の常識に反するような内容(公序良俗違反)は無効になります。また、離婚後困ってしまうのが、内容の書き忘れです。重要なことを書きわすれ、困ったことにならないように注意しましょう。
内容に間違いがないか不安だったり、書き忘れが心配ないか不安な場合は弁護士や行政書士に依頼しましょう。離婚協議書の作成をサポートします。
サザエさんとマスオさんは内容の書き忘れなどの不安や今後の生活の準備をで忙しいため、ノリスケさんに紹介してもらった法律事務所に出向き、離婚協議書を作成してもらうことにしました。すると、そこで、離婚協議書を公正証書にすることを勧められます。
公正証書とは



「公正証書」とは、公証役場で法務大臣が任命した公証人が作成する契約書であり、公文書のことです。
公正証書を作る必要があるときには、日本全国に約300か所ある公証役場のいずれかに出向いて、公証人に必要なことを伝えます。前もって弁護士や行政書士などの専門家に話を聞いたり、公正証書を作成する際の元になる当事者の合意書(メモのほか、専門家に依頼する場合は離婚協議書)を作ってから公証役場に行くと手続きがスムーズになります。そして、公証人と依頼人が公正証書案をチェックして問題がなければ案を最終化し、作成日当日には公証人と当事者2名が同席、3名で署名や印鑑をすると、公正証書作成手続きが完了します。できあがった公正証書の原本は20年間公証役場に保管されます。






公正証書のメリット
①証拠としての証明力が高い
契約に関して当事者同士で問題が起こった場合、話し合いで解決できないと裁判になることもあります。裁判では、当事者やその他の関係者の証言や、契約書などの書類など、さまざまな証拠が裁判官によって判断の材料となります。ですから、提出した証拠が信用できるかどうかが、裁判の勝敗を左右します。公正証書は法律の専門家である公証人が作る公文書なので、事実を立証するのにとても強力な証拠になります。
②強制執行ができる
契約で公正証書を作っておくと、裁判をしなくても強制執行ができることがあります。例えば、離婚したあと元夫が養育費を払わない場合、普通は、①元妻が裁判で勝つことが確定する、②元夫が判決に従わず、養育費を払おうとしない、③元妻が裁判所に強制執行を請求する、という手順を踏まなければなりません。でも、「期限までに支払わないと債務者は強制執行を受けることに同意する」という強制執行承諾条項を含んだ公正証書を用意しておくと、①②の手順を省略して、すぐに③の強制執行を請求できます。裁判は時間もお金もかかりますが、公正証書があれば、裁判の手間を省いて強制執行ができます。
③書類が保管される
自宅などに保管している契約書は紛失してしまうこともありますが、公正証書にしておけば、原本が公証役場に保管されていますので、紛失などの心配はありません。
④相手にプレッシャーをかけることができる
契約でお金を借りたり貸したりする場合、公正証書にすると、債権者(お金を貸した側)の立場からは、債務者(お金を借りた側)に債務の支払いをしっかりと求めることができるという利点があります。公正証書は公証役場という公の機関で厳密に作られる公文書なので、債権者が債務の履行(借金の返済)を真剣に望んでいることを債務者に感じさせることができます。もし債務者が支払いをしなくて裁判になったとしても、公正証書があれば債権者は債権(借金)があることを証明できるので、支払いを拒否する債務者にはほとんど勝ち目がないでしょう。このことをマスオさんがわかっていれば、契約通りに債務を支払おうとするはずです。
サザエさんは今後長い期間養育費がきちんと支払われるか不安に感じ離婚協議書を公正証書にすることととしました。
サザエさんとマスオさんは公正証書を作成した後、無事に離婚届を出すことにしました。
協議離婚の流れ
夫婦で互いに離婚の合意をします。
婚姻中築いた財産の分け方や、子供について(親権・養育費・面会交流など)など決めます。
そして、そのことを離婚協議書という契約書にします。
作成した離婚協議書を公正証書にします。
役場に離婚届を提出します。
②~③は弁護士や行政書士に依頼することができます。わからないことなどは気軽に相談しましょう。

