学資保険は、子供の教育費用を確保するために夫婦で加入することが多い保険です。しかし、夫婦が離婚する場合、学資保険の取り扱いについて慎重に考える必要があります。学資保険は、夫婦が共同で貯めた財産の一部として財産分与の対象になるのでしょうか?それとも、養育費の一部として扱うべきなのでしょうか?離婚時の学資保険の問題は、難解で複雑です。ここでは、離婚する際に学資保険をどのように扱うべきかについて、解説していきます。
この記事を読んでわかること
- 学資保険を離婚後どうするか
- 学資保険を財産分与するときの方法
- 学資保険を名義変更しないリスク

佐々木 裕介(弁護士・行政書士)
「失敗しない子連れ離婚」をテーマに各種メディア、SNS等で発信している現役弁護士。離婚の相談件数は年間200件超。協議離婚や調停離婚、養育費回収など、離婚に関する総合的な法律サービスを提供するチャイルドサポート法律事務所・行政書士事務所を運営。
学資保険とは?
学資保険とは、子供の教育資金を目的とした貯蓄型の保険のことで、毎月決まった額の保険料を支払うことで、子供が成長していく過程で必要な教育費用を確保することができます。学資保険には大きく分けて二種類あります。一つは定期型で、子供が小学校や中学校や高校や大学に入学するタイミングで進学準備金として一定額を受け取ることができます。もう一つは満期型で、子供が一定の年齢に達した時点で満期額資金として一括で受け取ることができます。どちらのタイプも、親が亡くなった場合は、それ以降の保険料の払いこみが免除される特約が付いており、保証がそのまま継続されるため、子供は安心して教育を受けることができます。
財産分与とは?
財産分与とは、民法第768条に規定される離婚に伴う財産の調整のことです。夫婦が結婚期間中に共同で財産を形成した場合は、その財産は夫婦の「共同所有財産」とされます。したがって、離婚する場合には、その共同所有財産を公正に分割する必要があります。財産分与の方法は、夫婦間で合意することが原則ですが、合意ができない場合には、裁判所に財産分与の調停や審判を申し立てることができます。財産分与の基準は、夫婦のそれぞれの貢献度や経済状況、将来の見込みなどを総合的に考慮することですが、一般的には夫と妻で半分ずつとなることが多いでしょう。財産分与の対象となる財産は、現金だけでなく、預貯金、保険、不動産、自動車、家具、家電なども含まれます。ただし、結婚前から所有していた財産や、相続や贈与で取得した財産などは、特段の事情がない限り除外されます。(特有財産)財産の名義が夫や妻になっていても、財産分与の対象となりますし、妻や夫が専業主婦や専業主夫であっても、財産分与の権利や義務があります。

学資保険は財産分与の対象?
原則的に学資保険は財産分与の対象となります。毎月夫婦で協力して学資保険を支払っていた場合、それは夫婦が協力して築いた財産を考えられ、夫婦の財産分与の対象となります。
学資保険が財産分与の対象とならないケース
上述したとおり、原則学資保険は財産分与の対象ですが、すべてが対象となるわけではないので注意が必要です学資保険は、結婚期間中に加入したものであれば、原則として共同所有財産として財産分与の対象となります。しかし、学資保険の保険料を夫婦のどちらか一方の親族が負担していた場合は、その親族の寄与によって得た財産として「特有財産」となります。したがって、この場合は財産分与の対象とはなりません。また、結婚前に加入して満期支払いを完了した学資保険も、財産分与の対象とはなりません。具体的には、配偶者の連れ子のための学資保険で結婚前に満期に支払っていたケースです。
学資保険を財産分与する2つの方法
離婚する際に、学資保険をどのように財産分与するかは、夫婦で決めることができますが、基本的には2つの方法があります。一つは、離婚時に学資保険を解約して、解約返戻金を半分ずつ受け取るパターンです。もう一つは、離婚時に学資保険をそのまま継続させるパターンです。一つずつ解説していきます。
①学資保険を解約し解約返戻金を受け取る
学資保険の解約と現金での財産分与については、夫婦間で協議し合意することで可能です。その場合は、学資保険を解約し、解約返戻金を受け取り、それを夫婦間で公正に分割することになります。ただし、学資保険は長期的な資産形成のためのものであり、契約期間内に解約すると、解約返戻金は保険料の総額よりも大きく減少することがあります。そのため、学資保険の解約は、財産分与のためだけでなく、子供の教育費の確保のためにも慎重に検討する必要があります。
②学資保険を継続させ、「代償金」を支払う
学資保険の継続と代償金の支払いについては、夫婦間で協議し合意することで可能です。その場合は、学資保険の契約者となる方が保険料を支払い続け、子供の教育費を確保します。この場合のメリットは、親権者が契約者となることで、子供の進学準備金や満期学資金を確実に受け取ることができることです。デメリットは、非親権者が学資保険の権利を放棄することになりますので、財産分与として、親権者から非親権者に、離婚時点での返戻金の半額分を「代償金」として支払う義務が発生することです。「代償金」の支払い方法は、一括で支払うか、分割で支払うか、または他の財産との交換かなど、夫婦間で協議することが必要です。ただ、親権者が学資保険を受け取る代わりに、通常相手に支払わなければならない「代償金」を、夫婦間で支払わない約束にすることも可能です。
学資保険は名義を変更できる
学資保険の契約者や受取人の名義変更については、離婚時に配偶者の合意があれば可能です。学資保険の契約者や受取人が配偶者になっている場合、離婚を機に名義変更をしておくと、子供の教育費の管理がしやすくなります。ただし、名義変更したあとは、自分で保険料の支払いが必要になります。もし保険料の負担が重い場合は、その金額を考慮した上で、養育費の請求をすることもできます。
学資保険の名義変更しないリスク
夫婦間の協議で離婚後も学資保険を継続することを決めたものの、契約名義を一切見直しや変更をせずそのままにしている方もいます。お互いの関係がある程度良好で面会なども定期的に続けているのであれば、それでも問題が起きないかもしれません。しかし、学資保険の名義変更をしないことは様々なリスクが発生する可能性があります。例えば、契約者が夫で、親権者が妻である場合、満期時には学資金は夫に支払われますが、夫が妻や子供にその金額を渡す保証はありません。また、夫が保険料の支払いを怠ったり、勝手に解約したりすると、妻はその事実を知ることができません。このような事態を防ぐためには、離婚の際に、学資保険の契約者や受取人の名義を変更することが必要です。名義変更をすることで、親権者が学資金の受取人になり、子供の教育費用の確保ができます。また、契約者も親権者に変更することで、保険料の支払いや解約の権利を有することができます。したがって、離婚後も学資保険を継続することを協議で合意した場合でも、学資保険の名義変更をすることは、子供の将来のためにも重要な手続きであると言えます。
学資保険を養育費の一部として考える
今まで解説してきた方法は学資保険を財産分与の原則にのっとり、公平に分割する方法でしたが、学資保険の取り扱いについては、養育費の一部として扱う方法もあります。この方法は、学資保険が子供の教育費用の確保のために契約したものであるという事実に基づいています。したがって、学資保険は財産分与の対象から除外し、親権者に名義変更することで、子供の将来のために必要な養育費の一部として認めることができます。夫婦間で協議した上合意すれば、このような方法もできます。

離婚協議書や公正証書にしよう
学資保険に関する離婚時の合意事項は、離婚協議書や公正証書に明記しておくことが重要です。離婚協議書は夫婦間で自由に作成できますが、公正証書は公証人役場で公証人に依頼して作成する必要があります。公正証書は法的な拘束力が強く、学資保険の返戻金が公正証書に記載されたとおり受け取れたかった場合などに、強制執行の手続きをとることができます。また、公正証書の原本は公証人役場に保管されるため、紛失や破損のリスクも低減できます。公正証書は離婚前後いずれの時点でも作成できますが、夫婦二人で公正役場に行く必要があるため、離婚前に作成する方がスムーズに進む可能性が高いです。学資保険は子供の教育費用の確保のために契約したものなので、離婚後も継続することを合意した場合は、名義変更や財産分与の方法などを明確にすることで、将来のトラブルや紛争を未然に防ぐことができます。
離婚協議書と公正証書
ここでは、離婚協議書や公正証書の違いなどを解説します。
離婚協議書
離婚協議書とは、協議離婚をする夫婦が、離婚に関する財産や子どもの問題などを書面にした合意書のことです。離婚協議書は法的に義務ではありません。また、法的な効力もありません。しかし、離婚時にした口約束では証拠にならないため、離婚後のトラブルを防ぐために作成することがおすすめです。例えば、夫婦間で取り決めた財産分与や慰謝料、親権や養育費、面会交流などの約束事を記載することが一般的です。離婚協議書を作成する際には、夫婦双方が納得できる内容であり、夫婦が合意していることが大切です。離婚協議書の作成には、弁護士や行政書士などの専門家に依頼することもできます。離婚協議書には決められた書式などがないため、夫婦だけで作成することも可能です。内容や表現にも決まりがないため、簡単に作成できると思われがちですが、表現があいまいで、互いの解釈に相違があり、離婚後トラブルに発展する恐れがあります。
公正証書
公正証書とは、公証人という法律の専門家が作成する公文書で、高い証明力を持つものです。公正証書は夫婦がそろって公証役場に出向いて作成します。離婚協議書を公証役場で公正証書にしてもらうというながれが一般的です。公正証書には、強制執行認諾約款というものを入れることができます。これは、養育費などの支払い債務について、相手方が不履行になった場合、裁判を経ずに強制執行手続きに入ることができるという約束です。つまり、裁判を行うことなく相手の給料などを差し押さえることができるということです。公正証書を作成すると、慰謝料や養育費などの支払いを確実にすることができます。
公正証書を弁護士や行政書士に依頼するメリット
弁護士
弁護士に公正証書の作成を依頼すると、離婚協議書の作成から公正証書の作成まで、一貫して法的なアドバイスとサポートを受けることができることです。弁護士は、離婚協議書の作成にあたって、夫婦双方の利益を考慮しながら、円満な協議を促進します。公証役場に夫婦でそろって出向くことが困難な場合は、弁護士に代理人を依頼することもできます。弁護士に公正証書の作成を依頼することで、離婚に関する権利義務を確実にすることができます。
行政書士
公正証書を行政書士に依頼すると、離婚協議書の作成から公正証書の作成までをサポートします。弁護士と行政書士の違いは、行政書士は夫婦双方の意見を聞くことはできません。夫婦で合意した内容を離婚協議書から公正証書にします。また、代理人として公証役場に行くことはできません。離婚の際、紛争性の高い場合は弁護士に依頼することがお勧めです。しかし、すでに夫婦間で約束事が合意されている場合は行政書士に依頼することがお勧めです。金額の違いもあります。詳しくは当サイトのサービスページをご覧ください。
養育費保証会社とは?
離婚前離婚協議書や公正証書を作成することで養育費の確実な支払がされるよう対策します。しかし、実際に養育費を受け取るのは、あなた自身です。子どもが成人するまでの間、毎月元配偶者から支払いがあったのか、確認しなくてはなりません。もしも支払いがなかった場合には、あなたが元配偶者に対して催促を行い、必要に応じて強制執行の申し立てを行わなくてはなりません。これらのことは、時間的にも経済的にも精神的にも負担が大きいことです。そこで、養育費保証会社に加入するという選択肢もあります。養育費保証会社とは、離婚後に子どものために養育費を受け取る人が、養育費保証会社と契約を結ぶことで、養育費の支払いを保証してもらうことができる会社のことです。
メリット
養育費保証会社に加入することのメリットは、以下のとおりです。
- 養育費保証会社は、あなたに代わって債務者に養育費を請求します。あなた自身に支払われる養育費は養育費保証会社から支払われます。そのため、債務者から支払いが行われているかという不安から解放されます。
- もしも債務者からの支払いが止まっても、1年間は養育費が保証されます。つまり、養育費保証会社があなたに養育費を払い続けます。
- 養育費保証会社の弁護士が、強制執行の手続きを行います。弁護士を探すという手間や費用もかかりません。
- 現在一部の自治体では、養育費保証を契約する際の初回手数料を支援しています。初回手数料は、養育費の1か月分程度です。
デメリット
デメリットは以下の通りです。
月々の手数料3%がかかる。
この手数料により養育費を支払う側の金額は変化しません。支払われる側の金額から3%引かれた状態で振り込まれるというシステムです。
離婚するときには、養育費の支払いに関して、離婚協議書を公正証書にすることや、養育費保証会社に加入することなど、様々な選択肢があります。これらの選択肢のメリットやデメリットをよく理解し、自分にとって最適な方法を選ぶことが重要です。離婚に関する法律や手続きは複雑で難しいことが多いので、弁護士や行政書士などの専門家に相談することもおすすめします。
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