「財産分与」とは、離婚するときに、夫婦が婚姻期間中に協力して築いた財産を清算することです。 「財産分与」は、離婚のときに決めておくべき「お金」の問題のなかでも高額な話ですので、離婚時の争点となる場合が多いです。婚姻期間が長く、貯めた財産が高額なほど、「財産分与」の内容も複雑になり詳細な話し合いが必要になります。「財産分与」の対象となる財産や分与割合は、離婚方法によって異なります。 「財産分与」は離婚後の生活に大きな影響を及ぼすため、「財産分与」をきちんと行うことは重要です。しかし、「財産分与」には、請求期限などの気を付けるべきこともあります。 ここでは、離婚時に知っておきたい財産分与について解説していきたいと思います。
この記事を読んでわかること
- 財産分与について(種類・割合・名義など)
- 共有財産と特有財産の違い
- マイナスの財産について
- 財産分与の請求期限
佐々木 裕介(弁護士・行政書士)
「失敗しない子連れ離婚」をテーマに各種メディア、SNS等で発信している現役弁護士。離婚の相談件数は年間200件超。協議離婚や調停離婚、養育費回収など、離婚に関する総合的な法律サービスを提供するチャイルドサポート法律事務所・行政書士事務所を運営。
財産分与とは
(財産分与)
第七百六十八条 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から二年を経過したときは、この限りでない。
3 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。
民法参照
財産分与とは民法に法的な根拠があり、離婚時にその一方は、相手方に対して財産を分与すること定められています。
夫婦が結婚生活で共に財産を築いた場合は、その財産は夫婦の「共同所有」とみなされます。ですから離婚するときには、その共同所有の財産をどう分配するかを決定しなければなりません。
財産分与の種類
財産分与には「清算的財産分与」「扶養的財産分与」「慰謝料的財産分与」の3種類があります。1つずつ詳しく解説していきます。
清算的財産分与
「清算的財産分与」とは、離婚するときに、夫婦が婚姻期間中に協力して築いた財産を分け合って清算することをいいます。 日本の民法では、夫婦はそれぞれ別々の財産を持つとされていますが、実際には夫婦は共同生活を営むためにお互いに協力して財産を取得しています。そのため、離婚の際には、夫婦の実質的な共有財産を公平に分割する必要があります。 「清算的財産分与」は、夫婦関係の破綻についてどちらに非があるかといったことによらず発生します。不貞行為や暴力などの離婚原因があっても、財産分与の必要性に変わりはありません。この記事ではこの「清算的財産分与」の話を中心にしていきます。
扶養的財産分与
「扶養的財産分与」とは、離婚するときに、離婚後に経済的自立が困難な一方の配偶者に、自立できるまでの間の生活費を支払うことをいいます。 離婚すれば夫婦間の扶養義務はなくなりますが、結婚を機に仕事を辞めて長期家庭に入っていたり、高齢や病気などですぐに自立できない場合もあります。そこで、離婚後すぐに自立することができない配偶者には、一定期間扶養的な意味合いで、財産を分けることで調整されます。このような場合、一般的には、離婚後一定期間(1年~3年程度)必要最小限の金額を毎月支払うという形がとられることが多いです。 ただし、離婚後は夫婦がそれぞれ自活していくことが望ましく、扶養的財産分与はあくまでも補充的なものです。そのため、実際の裁判では、特別な事情がある場合に限って認められます。
慰謝料的財産分与
「慰謝料的財産分与」とは、離婚するときに、不倫や暴力などの離婚原因を作った配偶者が、その責任に応じて財産を分け与えることをいいます。 「慰謝料的財産分与」は、離婚により受けた精神的苦痛や生活の変化に対する償い(慰謝料)として支払われます。 慰謝料と財産分与は別物ですが、慰謝料も財産分与に含めて請求することができます。家庭裁判所では、財産分与額については夫婦で協力して作り上げた財産の額と「その他一切の事情」を考慮して決めますが、この「その他一切の事情」のなかに、慰謝料支払いの理由となるような事情(不倫や暴力)も含めて考えるということです。 ただし、慰謝料請求権は、先ほどもお話したとおり財産分与とは別です。そのため、慰謝料については別途請求することが多いです。
財産分与の割合
私は専業主婦ですが、分与割合はどのくらいになるの?
基本的には2分の1ずつと考えます。
「財産分与の割合」とは、離婚するときに、夫婦で築いた財産をどのように分け合うかを決める割合のことです。「財産分与の割合」は、「夫婦のどちらが財産の形成にどの程度貢献したか」によって決まりますが、特段の事情がない限り、夫婦の寄与度は平等と考えられています。そのため、基本的には2分の1(半分ずつ)という「2分の1ルール」が適用されることになります。 2分の1ルールは、夫婦が共同生活をしているときには、夫婦の財産に対する寄与度は平等に考えるべきだということを意味しています。たとえ一方が働いて収入を得て、他方が専業主婦(専業主夫)として家事や育児を担ったとしても、家事労働分の価値は、収入を得た方の仕事と同等だというわけです。 ただし、夫婦の一方の特別な資格・能力により非常に多くの財産を形成した場合などは貢献度の差が大きく、割合を2分の1とするとかえって不公平になる場合は、例外的に割合が変更されることになります。そのような場合は、それを裏付ける証拠によって立証する必要があります。
財産の名義
財産分与の対象になるかどうかは、その財産が誰の名義かは関係ありません。名義がどちらにあっても、夫婦で作ったものなら、財産分与として分ける必要があります。たとえば、家や車や預貯金や保険など、夫婦の一方の名義になっていても、夫婦の共有財産として扱われます。そして、子どもの名義にある預貯金や学資保険なども、夫婦が作った財産として分けますが、実際には、子どものために使うことを約束して、子どもを育てる親権者側がもらうということが多いです。
財産分与の対象
(夫婦間における財産の帰属)
第七百六十二条 夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。
2 夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。
民法参照
財産分与の対象となるものは民法に上記のように定められています。財産には「特有財産」(1項)と「共有財産」(2項)が有ります。「共有財産」とは夫婦が協力して形成した財産です。
共有財産
結婚生活で夫婦が協力して築いた財産は、夫婦の共有財産となります。夫婦の共有財産とは、婚姻期間中に取得した財産のことで、夫婦のどちらの収入で取得したかや、どちらの名義になっているかは関係ありません。共有財産かどうかが不明な財産は、全て共有財産だと「推定」されます。共有財産には、具体的には、次のようなものがあります。
- 土地・家
- 車
- 現金・預貯金
- 株式等
- 保険
- 家財道具
- 退職金
1つずつ解説していきます。
土地・家
離婚するときに、土地や家は共有財産として財産分与の対象となります。ただし、家のローンがある場合は、家の価値とローンの額によって、分け方が変わります。 家の価値がローンより高い場合は、その差額を財産として分けることができます。ただし、頭金を一方の特有財産(結婚前の貯金や親族からの援助金など)から出した場合、その頭金の特有財産の割合部分は、頭金を出した人の固有の財産として財産分与の対象から外れます。 家の価値がローンより低い場合は、「オーバーローン」と言って、財産ではなく借金になってしまいます。オーバーローンの場合は、財産分与で分けることができません。そのため、夫婦で話し合って、どちらかが家を引き取ってローンを払い続けるか、家を売ってローンを返すか、などの方法を考える必要があります。 財産分与の対象財産は不動産そのものではありますが、財産価値として把握される場合は分与時(別居時ではない)の時価が分与の対象額となります。
車
婚姻中、夫婦が協力して買った自動車は、夫婦の共有財産となります。 自動車の分与額は、分与時の市場価格が基準となりますが、ローンが残っている場合は、市場価格からローン残高を引いた金額を財産分与の対象とします。自動車の価値が低い場合も多く、分与の対象としないで主に使っていた方がそのまま使い続けるというケースも多いです。
現金・預貯金
預貯金は、婚姻中に貯めたものであれば、名義にかかわらず共有財産となります。たとえば夫の名義になっていて夫が管理していても、離婚時には共有財産として財産分与の対象となります。これは配偶者に内緒で貯めた「へそくり」も同様で、財産分与の対象となります。ただし、結婚前の預貯金や、相続や贈与によって取得したお金を入金したものは、特有財産と考えるため、財産分与の対象にはなりません。
株式等
婚姻期間中に買った株式等の有価証券は、名義がどちらであっても共有財産とみなされます。 共有財産として分けるときには、分与時の株式の価値が基準となります。
保険
保険も、離婚するときに共有財産として財産分与の対象となります。 財産分与の対象となるのは、婚姻中に払い込んだ保険料に対する解約返戻金です。解約返戻金とは、保険を解約することで払い戻される金銭のことです。 また、婚姻中に加入した保険を一方の配偶者が引き継ぐ場合は、解約返戻金に相当する額をもう一方の配偶者に支払う必要があります。 ただし、保険料を支払っていたのが両親や親族であった場合など、夫婦が協力して保険料を支払っていたわけではない場合は、財産分与の対象にはなりません。 保険には、生命保険、学資保険、損害保険などがあります。
家財道具
婚姻中購入した家財道具も、共有財産として財産分与の対象です。
退職金
退職金は、夫婦が婚姻中に協力して得た財産の一部として、共有財産となります。退職金の分与額は、婚姻期間に対応する部分について決められます。その方法は、退職金をもらっている場合と、まだもらっていない場合とで異なります。 退職金をもらっている場合は、退職金額に対して、結婚期間と勤続年数の割合をかけた金額が共有財産となります。その金額を原則2分の1で分けることになります。たとえば、勤続年数が40年、結婚期間が20年、退職金額が1000万円だった場合、共有財産は500万円(1000万円×20/40)となり、その半分の250万円が分与額となります。 退職金をまだもらっていない場合は、将来退職金をもらう確実性が高い場合には、財産分与の対象となります。その場合、基準時に自己都合退職したと仮定した場合の退職金額を基準に、婚姻期間に対応する部分を財産分与の対象と考えます。
特有財産
私が結婚前から持っていたものも、財産分与で半分になってしまうのかしら?
それらは、特有財産といって、財産分与の対象にはなりません。
特有財産とは、夫婦の一方が自己の名義で単独で有する財産のことです。特有財産は、財産分与の対象になりません。特有財産には、次のようなものがあります。
- 結婚前に取得した財産
- 結婚中でも、相続や贈与によって取得した財産(ただし、夫婦の生活費の足しにするために贈与された場合は除く)
- 仕事道具や服飾品など、一方の専用品といえるもの
マイナスの財産(負債)
財産分与の対象には、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産も含まれます。プラスの財産とは、預貯金や株式などの資産のことで、マイナスの財産とは、住宅ローンや借金などの負債のことです。 財産分与の対象となる財産の価値は、プラスの財産からマイナスの財産を差し引いた金額となります。プラスの財産が多い場合のみ財産分与が行われます。財産の価値よりも負債の金額のほうが大きいとき、「オーバーローン」(債務超過)の状態といって、そのような財産を分与の対象から外します。(例えば、住宅ローンを払うとマイナスになってしまう不動産など)。 財産分与の対象となる財産は、夫婦の協力関係と関係があるものです。婚姻生活とは無関係の借金や個人的な趣味のために行われた借金は、各自で負担します。分担しません。婚姻生活とは関連性のない支出は、婚姻生活の維持には関連性がないものとして、財産分与の対象から外します。
財産分与の請求期限
財産分与は、離婚が成立してから2年以内に請求しなければなりません。 離婚が成立するまで別居していても、請求期限は始まりません。 ですから、離婚する前に財産分与の内容を決めておくことが大切です。 しかし、どうしても離婚を先に済ませなければならない場合もあります。 その場合は、期限があることを忘れずに、早めに請求をする必要があります。
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