離婚後の氏と戸籍について書かれた記事は数多くありますが、その大半は「日本人同士の夫婦」を前提にしています。父が外国籍の場合、前提そのものが違います。ここでは、日本人の母と外国籍の父という組み合わせを想定して整理します。
日本人同士の場合の復籍・新戸籍・婚氏続称については、親権者と監護者の違いについて~離婚後の戸籍と氏の変更~と離婚後、子供の姓や戸籍の手続きは?で説明しています。この記事は、そこに書ききれない渉外の部分だけを扱います。
そもそも、外国籍の配偶者は戸籍に入っていません
まず、ここが出発点です。
戸籍法16条3項は、日本人と外国人との婚姻の届出があったときは、その日本人について新戸籍を編製すると定めています。外国籍の配偶者は、戸籍の身分事項欄に婚姻の相手として記載されますが、戸籍の構成員にはなりません。
つまり、日本人の妻と外国籍の夫という組み合わせでは、戸籍は最初から妻ひとりの戸籍です。
そうすると、日本人同士の離婚でよく説明される「夫の戸籍から抜けて、実家の戸籍に戻る(復籍)か、新しい戸籍をつくるか」という選択そのものが出てきません。抜ける先の戸籍が、もともとないからです。
婚姻のときに、氏は変わっていないことが多い
民法750条は「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」と定めています。ただし、これは日本人同士の婚姻についての規定です。
外国人と婚姻しても、日本人配偶者の氏が当然に変わることはありません。 婚姻届を出しただけでは、氏は元のままです。
配偶者の称している氏に変えたい場合には、別の手続があります。戸籍法107条2項は、外国人と婚姻をした者がその氏を配偶者の称している氏に変更しようとするときは、婚姻の日から6か月以内に限り、家庭裁判所の許可を得ないで届け出ることができるとしています。
したがって、離婚時の状況は次のどちらかです。
- 氏を変えていない — 離婚しても、氏について手続は要りません
- 戸籍法107条2項で相手の氏に変えた — 次の項の期限に注意が必要です
相手の氏に変えていた場合の「3か月」
婚姻時に配偶者の氏に変えていた場合、離婚後に元の氏に戻すには期限があります。
戸籍法107条3項は、107条2項によって氏を変更した者が、離婚、婚姻の取消し又は配偶者の死亡の日以後にその氏を変更の際に称していた氏に変更しようとするときは、その日から3か月以内に限り、家庭裁判所の許可を得ないで届け出ることができるとしています。
この3か月を過ぎると、家庭裁判所の許可が必要になります。 107条1項は、氏の変更に「やむを得ない事由」と家庭裁判所の許可を求めています。単に「元に戻したい」というだけでは足りない可能性があります。
日本人同士の「婚氏続称」と混同しないでください
ここは間違えやすいところです。
日本人同士の離婚では、民法767条1項により、婚姻で氏を改めた側は離婚によって当然に婚姻前の氏に復します。そのうえで、同条2項により、離婚の日から3か月以内に届け出れば、離婚の際に称していた氏(婚氏)をそのまま名乗り続けることができます。3か月の届出は「変えない」ための手続です。
外国籍の配偶者との離婚では、向きが逆になります。氏は自動では戻りません。3か月の届出は「戻す」ための手続です。
| 日本人同士の離婚 | 外国籍の配偶者との離婚 | |
|---|---|---|
| 婚姻での氏 | 一方が相手の氏に変わる(民法750条) | 当然には変わらない |
| 離婚での氏 | 婚姻前の氏に復する(民法767条1項) | 自動では戻らない |
| 3か月の届出 | 婚氏を続けるため(民法767条2項) | 婚姻前の氏に戻すため(戸籍法107条3項) |
| 期限を過ぎたら | 家庭裁判所の許可(戸籍法107条1項) | 家庭裁判所の許可(戸籍法107条1項) |
期限の起算日は離婚の日です。離婚届を出す前に、どちらの氏で生活していくかを決めておいたほうが動きやすくなります。
子の氏は、多くの場合そのままです
民法790条1項は「嫡出である子は、父母の氏を称する。ただし、子の出生前に父母が離婚したときは、離婚の際における父母の氏を称する」と定めています。
父が外国籍で、母が日本の氏のままである場合、子が称しているのは母の氏です。そして子は、母の戸籍に入っています。
離婚しても、子の氏も戸籍も動きません。 日本人同士の離婚で必要になる「子の氏の変更許可」も、「子を母の戸籍に入れる手続」も、この形では出てきません。
日本人同士の離婚で最も手間のかかる部分が、この組み合わせでは最初から済んでいる、ということになります。
※ 母が外国籍で父が日本人という組み合わせでは、戸籍は父のもので、子は父の戸籍に入っています。離婚後に母が子を自分の側で育てる場合、子の氏と戸籍は自動では動きません。この場合は日本人同士の離婚に近い検討が必要になります。
子に父の氏を名乗らせたいとき
子に外国籍の父の氏を名乗らせたい、というご相談があります。
日本人同士の場合に使う民法791条1項(子が父又は母と氏を異にする場合に、家庭裁判所の許可を得て届け出る)は、日本の戸籍上の氏を持つ父母の氏に変える枠組みです。外国籍の父は戸籍に入っていないため、この枠組みには乗りません。
外国籍の父母の氏に変えるための規定は、別に置かれています。戸籍法107条4項は、父又は母が外国人である者(戸籍の筆頭に記載した者又はその配偶者を除く)が、その氏をその父又は母の称している氏に変更しようとする場合について、107条1項を準用しています。
準用されるのは1項ですから、家庭裁判所の許可が必要です。母の氏の変更で使える6か月・3か月の無許可の届出とは、この点が違います。
子が幼い場合には、だれが申立てをするかも含めて、あらかじめ家庭裁判所に確認しておく必要があります。
姓の表記が書類ごとに食い違うことがあります
渉外の事案では、次の書類で氏名の扱いが違ってくることがあります。
- 戸籍の氏
- パスポートの氏名表記
- 在留カード(外国籍の親・子の場合)の氏名
- 相手の国の身分登録上の氏名
日本側で氏を変えても、相手の国の登録が自動で変わるわけではありません。逆も同じです。それぞれの窓口で、どの表記に合わせるかを確認しておく必要があります。
相手の国での離婚の扱いそのものについては、外国籍の配偶者との協議離婚|相手の国で有効になるかで整理しています。
親権と、氏・戸籍は別の問題です
最後に、混同されやすい点をひとつ。
2026年4月の改正で、離婚後も父母の双方を親権者と定めることができるようになりました(民法819条1項)。ただし、親権者を誰にするかということと、子の氏や戸籍がどうなるかは、連動していません。
親権者を父と定めても、それによって子の氏や戸籍が動くことはありません。氏と戸籍は、上に書いた別の手続によります。
共同親権と外国籍の親については、外国籍の夫と離婚|共同親権は選べる?で整理しています。
離婚届を出す前に決めておきたいこと
- 婚姻のときに氏を変えているか(戸籍法107条2項の届出をしたかどうか)
- 変えている場合、離婚後どちらの氏で生活するか(3か月の期限があります)
- 子の氏を変える必要があるか(多くの場合、変える必要はありません)
- 変える場合、家庭裁判所の許可が要るかどうか
- 相手の国での氏名の登録をどうするか
氏と戸籍の手続は、離婚が成立してからでも進められますが、期限のあるものが混じっています。離婚届を出す前に見通しを立てておくほうが、選べる幅が広くなります。
外国籍の配偶者との離婚について、当事務所では弁護士・行政書士として、離婚協議書や公正証書の作成から家庭裁判所の手続まで一つの窓口でお受けしています。初回30分のご相談は無料です。
この記事で触れた民法・戸籍法の条文は、e-Gov法令検索でご確認いただけます。個別の事案での取扱いは、市区町村の戸籍窓口や家庭裁判所にご確認ください。








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