外国籍の配偶者と離婚届を出して日本では離婚が成立したのに、相手の国では今も結婚したままだった——国際離婚では実際に起こることです。日本の協議離婚は役所への届出だけで成立しますが、この形の離婚を持たない国が少なくありません。離婚届を出す前に確認しておきたい点を整理します。
日本の協議離婚は、役所に届け出るだけで成立します
日本では、夫婦が離婚することに合意していれば、市区町村の窓口に離婚届を出すことで離婚が成立します。裁判所は関与しません。証人2名の署名があれば、その日のうちに受理されます。
日本の家事事件では、この協議離婚が離婚全体の大半を占めています。当事者にとっては手続が軽く、費用もかからない仕組みです。
条文でいうと、民法763条が「夫婦は、その協議で、離婚をすることができる」と定め、民法764条が婚姻の届出に関する民法739条を協議離婚に準用しています。証人2名の署名が必要なのは、739条2項によるものです。
また、民法765条1項は、未成年の子がいる場合には、親権者の定めがされていること(または親権者の指定を求める家事審判・家事調停の申立てがされていること)を確認したうえでなければ離婚届を受理できないとしています。子がいる場合、離婚届は親権の取り決めとセットになります。
ただし、この「合意と届出だけで離婚が成立する」という形は、世界的にみると多数派ではありません。 多くの国では、離婚は裁判所の判決や決定によって成立するものとされています。相手の国からみると、日本の離婚届は「裁判所を通っていない離婚」に見えます。
そもそも、日本法で離婚できるのか(準拠法)
外国籍の配偶者との離婚では、まず「どの国の法律で離婚するか」が決まります。
法の適用に関する通則法27条ただし書は、「夫婦の一方が日本に常居所を有する日本人であるときは、離婚は、日本法による」と定めています。
つまり、日本人である配偶者が日本に住んでいる場合には、日本法によって離婚することになります。 日本法によるということは、協議離婚という方法も選べるということです。
準拠法の考え方は、外国籍の夫と離婚|共同親権は選べる?でも整理しています。
日本で離婚が成立しても、相手の国で当然に有効とは限りません
ここが本題です。
日本で離婚が成立したことと、その離婚が相手の国で認められることは、別の問題です。
日本の離婚届による離婚を、相手の国がどのように扱うかは、その国の法律によります。裁判所の判決による離婚しか認めていない国では、日本の離婚届だけでは離婚が成立していないものとして扱われることがあります。
どの国がどう扱うかについて、当事務所が一般論として断定することはできません。 国によって制度が異なりますし、同じ国でも州や地域によって扱いが違うことがあります。
一方の国では独身、他方では既婚という状態
もし相手の国で離婚が認められなければ、日本では独身、相手の国では既婚という食い違いが残ります。国際私法では跛行的(はこうてき)法律関係と呼ばれる状態です。
この食い違いは、次のような場面で表に出てきます。
- 相手の国で再婚しようとしたとき
- 相手の国で相続が発生したとき(配偶者としての地位が残っているか)
- 相手の国での子の身分の登録
- 相手の国での年金や社会保障の扱い
日本側の手続だけを見ていると気づきにくく、何年も経ってから問題になることがあります。
相手が国外にいる場合、離婚届はどうするか
協議離婚の届出には、夫婦双方の署名が必要です。相手がすでに母国に帰っている場合、この署名をどう得るかが実務上の問題になります。
- 離婚届の用紙を相手方に送り、署名してもらって返送してもらう方法が一般的です
- 相手が署名に応じない、連絡が取れないという場合、協議離婚はできません。家庭裁判所の調停や訴訟によることになります
- 相手が国外にいる場合の調停・訴訟は、送達に時間がかかることがあります。相手の所在国によっては、条約にもとづく送達の手続が必要になります
「相手が帰国してしまったが、まだ離婚届を出していない」という状態が、いちばん動きにくくなります。 相手が日本にいるうちに書面を整えておくことの意味は、ここにもあります。
一方的に離婚届を出されるおそれがあるとき
離婚届は、窓口で本人確認が行われますが、相手が勝手に提出してしまうことを完全に防ぐ仕組みではありません。 心配がある場合は、市区町村に離婚届の不受理申出をしておくことができます。申出をしておくと、本人が窓口に出向いて確認するまで受理されません。
相手の国での扱いを、どこで確認するか
確認先は日本の役所ではありません。相手の国の側に確認する必要があります。
- 日本にある相手国の大使館・領事館 — 自国民の身分事項について、どのような手続が必要かを案内していることがあります
- 相手国の弁護士 — 承認の要件そのものを判断できるのは、その国の資格を持つ人です
当事務所でも、相手国の制度そのものについてお答えすることはできません。日本側で何が用意できるかをお示しし、相手国側で何を確認すべきかを整理するところまでが、こちらでできる範囲です。
日本側で用意できる書類
相手の国に離婚を届け出る場合、日本側の書類の提出を求められることが一般的です。
- 離婚届受理証明書(市区町村が発行します)
- 戸籍謄本(離婚の記載があるもの)
- これらの翻訳
- 提出先の国によっては、アポスティーユまたは領事認証
必要な書類の組み合わせと認証の方法は、提出先の国によって変わります。先に相手国側の要件を確認してから、日本側の書類をそろえるという順番が安全です。
相手の国が判決を求める場合の選択肢
相手の国が裁判所の判断による離婚を求めている場合、日本でも家庭裁判所の手続を経る方法があります。
- 調停離婚 — 家庭裁判所の調停で成立した離婚です。調停調書が作成されます
- 審判離婚・裁判離婚 — 審判書や判決書が作成されます
いずれも家庭裁判所が作成する公文書が残ります。協議離婚とは、この点が異なります。
日本での3つの方法と、残る書面
| 方法 | 裁判所の関与 | 残る書面 |
|---|---|---|
| 協議離婚 | なし | 離婚届受理証明書・戸籍の記載 |
| 調停離婚 | あり(調停) | 調停調書・戸籍の記載 |
| 審判離婚・裁判離婚 | あり(審判・判決) | 審判書・判決書・戸籍の記載 |
相手の国が「裁判所の判断」を求めている場合に意味を持つのは、下の2つです。
⚠️ ただし、日本の家庭裁判所の調停や判決を相手の国が承認するかどうかも、その国の法律によります。 「調停にしておけば安心」と申し上げることはできません。相手国の要件を確認したうえで、どの方法を選ぶかを決めることになります。
離婚届を出す前に確認しておきたいこと
- 相手の国が、行政機関への届出による離婚を認めているか
- 認めていない場合、何があれば認められるか(裁判所の判断か、一定の登録か)
- 相手の国での手続を誰が行うか(相手方が協力してくれるか)
- 必要な書類と認証の方法
- 日本での手続を協議離婚・調停離婚のどちらで進めるか
この確認は、離婚届を出す前のほうが選択肢が広くなります。 届出をした後で相手国の要件が判明すると、あらためて日本の裁判所の手続をとり直すことになりかねません。
外国籍の配偶者との離婚について、当事務所では弁護士・行政書士として、離婚協議書や公正証書の作成から家庭裁判所の手続まで一つの窓口でお受けしています。初回30分のご相談は無料です。
英語でお読みになりたい方には、同じ論点を英語で書いた記事があります。Is a Japanese Divorce by Agreement Valid in My Country?
この記事で触れた法の適用に関する通則法の条文は、e-Gov法令検索でご確認いただけます。相手国での承認については、その国の制度によりますので、個別にご確認ください。








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