養育費の取り決めをしないまま離婚した場合、2026年4月の民法改正で、月額2万円の法定養育費を請求できるようになりました。相手が外国籍の場合、この制度をどう考えればよいのでしょうか。取り決めをしないまま離婚してしまったという方、これから離婚を考えている方の双方に向けて、制度の中身と、渉外事案で気をつけたい点を整理します。
法定養育費とは、取り決めをしないまま離婚した場合に子1人につき月2万円です
2026年4月1日に施行された改正民法で、民法766条の3が新設されました。
父母が子の監護に要する費用の分担について取り決めをしないまま離婚した場合に、離婚の時から引き続き子の監護を主として行っている父母の一方が、もう一方に対して、法務省令で定める額を請求できるという制度です。
金額は法務省令で、子1人につき月額2万円と定められています。
- 請求できる人: 離婚の時から引き続き、その子の監護を主として行っている父母の一方
- 始期: 離婚の日から
- 支払時期: 毎月末(1か月ごとに履行期が来る定期金です)
いつまで請求できるか
次の3つのうち、いちばん早く来た日までです。
- 父母が協議により、子の監護に要する費用の分担についての定めをした日(調停の成立も含みます)
- 子の監護に要する費用の分担についての審判が確定した日
- 子が成年(18歳)に達した日
離婚の月と、終わりの月は、日割りで計算されます。
協議離婚だけの制度ではありません
条文の本文は「協議上の離婚をした場合には」と書かれていますが、準用規定があるため、実際にはもっと広く及びます。
- 民法771条により、裁判離婚にも準用されます
- 民法788条により、認知の場合にも準用されます
- 調停離婚や、調停に代わる審判の確定による離婚にも準用されると解されています
認知の場合にも及ぶという点は、外国籍の相手との間では実際に問題になることがあります。婚姻していない相手との間に子がいて、認知をしてもらったものの養育費の取り決めはしていない、という場合です。
2026年3月31日までに離婚した方は、対象になりません
ここが最も誤解されやすい点です。新民法附則3条2項により、法定養育費は施行日以後に離婚した場合に限られます。
2026年4月1日の改正では複数の制度が同時に動いていますが、施行前に離婚した方への適用は制度ごとにばらばらです。共同親権については外国籍の夫と離婚|共同親権は選べる?で整理しています。
| 制度 | 2026年3月31日までに離婚 | 2026年4月1日以後に離婚 |
|---|---|---|
| 法定養育費(子1人につき月2万円) | 使えません | 使えます |
| 先取特権(月8万円まで) | 使えます(施行日以後に生じる各期の分について。昔の取り決めでも) | 使えます |
| 財産分与の請求期間 | 2年のまま | 5年 |
2行目の先取特権は、法定養育費と違って過去の取り決めにも及びます。「何年も前に作った公正証書があるが、途中から支払われなくなった」という場合、2026年4月以降に支払期が来る分については、新しい方法での回収を検討できます。この点は別記事で詳しく書いています。
「請求すればもらえる」制度ではありません
法定養育費には、支払義務者の側の防御方法が用意されています。
民法766条の3第1項ただし書により、支払義務者は、次のいずれかを証明したときは、支払の全部または一部を拒むことができます。
- 支払能力を欠くために支払をすることができないこと
- その支払をすることによって、その生活が著しく窮迫すること
また、民法766条の3第3項により、家庭裁判所は、養育費の定めや変更をする際に、支払義務者の支払能力を考慮して、法定養育費の全部または一部の免除、支払の猶予、その他相当な処分を命じることができます。
さらに、既に支払われた分の精算規定は置かれていません。後から協議や審判で定まった額が、それまでに支払われた法定養育費より少なかったとしても、返還についての規定はありません。
「養育費は18歳まで」という意味ではありません
先ほどの終期③は「子が成年(18歳)に達した日」ですが、これは法定養育費の終期です。
取り決めや審判で定まる養育費の終期について、家庭裁判所の実務上の取扱いに変更はありません。20歳まで、大学卒業までといった定め方は、これまでどおりです。18歳で切れるのは法定養育費だけだとご理解ください。
相手が外国籍の場合に、特に気をつけたいこと
どの国の法律で判断されるか
養育費(扶養義務)については、扶養義務の準拠法に関する法律2条1項が「扶養義務は、扶養権利者の常居所地法によつて定める」と定めています。扶養権利者はお子さまですので、お子さまが日本に常居所を有していれば、日本法によることになります。
離婚そのものの準拠法とは別の法律で決まる、という点にご注意ください。詳しくは、外国籍の夫が帰国したら養育費は?で整理しています。
請求できることと、回収できることは別です
法定養育費を請求できる立場にあることと、実際にお金が入ってくることは、別の問題です。取り決めがあっても支払われないことがどれくらいあるかは、養育費未払いの現実でも触れています。
2026年4月にできた回収の手段(先取特権、給与債権に対するワンストップの執行手続)は、いずれも相手の勤務先や財産が日本国内にあることが前提になっています。相手が日本を離れてしまうと、この前提が崩れます。
この点については、日本の法律の解説文献にも渉外事案を想定した記述が見当たりません。制度としてはこうなっている、というところまではお伝えできますが、個別の事案で実際に回収できるかどうかは、相手の所在国や資産の状況によります。 断定的なご説明はいたしかねますので、事情を伺ったうえで、できることとできないことを分けてお話しします。
取り決めをしておく意味は、改正で大きくなりました
法定養育費は、暫定的・補充的な制度です。取り決めによる養育費に取って代わるものではありません。
取り決めや審判で定まる養育費は、双方の収入や子の年齢といった個別の事情をふまえて決まります。これに対し、法定養育費は子1人につき一律に月2万円です。取り決めをしておくかどうかで、受け取れる額が変わり得ます。
離婚が成立した後に合意書を作る場合、作成日を書いてください
先ほどの終期①は「父母が協議により定めをした日」です。つまり、合意書を作成した日が、法定養育費の終期になります。
そのため、離婚成立後に養育費の合意書を作る場合は、次の点に気をつけてください。
- 合意の成立日を明記する(日付がないと、いつ取り決めをしたのかが後から争われます)
- この合意より前に、養育費の分担についての定めをしていないことを確認する条項を入れる
- 清算条項が法定養育費にも及ぶ趣旨なのかどうかを明記する
作成日の記載がない、宛先がない、署名も押印もない、といった念書は、後日の手続で不十分と判断されることがあります。
なお、離婚が成立する前に協議書を作る場合は、離婚届の提出と同時に養育費の定めが存在することになりますので、法定養育費は発生せず、この配慮は不要です。
執行の場面では、書面が本物であることの証明が求められます
取り決めた額を、先取特権にもとづいて回収しようとする場合、その合意書が本当に相手が作成したものであることを裁判所に示す必要があります。
- 実印による押印と印鑑登録証明書があれば、成立の真正が推定されます
- 署名のみの場合は、離婚届など相手が作成した他の書面との筆跡の対照によることになります
- 記名のみで対照できる書面もない場合は、合意に至る経過が分かるメールやメッセージ、過去に支払われた分の預金通帳の写しなどによることになります
実印による押印が期待しにくい事情がある場合は、この点をあらかじめ考えておく必要があります。公正証書にしておけば、この問題は生じません。 離婚公正証書を作る手順と、養育費の強制執行の料金案内もあわせてご覧ください。
まとめ — いま確認しておきたいこと
- 2026年4月1日以後に離婚し、養育費の取り決めをしていない方は、法定養育費(子1人につき月2万円)を請求できる可能性があります。始期は離婚の日です
- 2026年3月31日までに離婚した方は、法定養育費の対象外です。ただし、先取特権は過去の取り決めにも及びます
- 法定養育費は、支払義務者が支払能力を欠くことなどを証明すれば拒むことができます
- 18歳で終わるのは法定養育費です。取り決めによる養育費の終期の実務は変わっていません
- 相手が外国籍で、日本を離れる可能性がある場合、請求できることと回収できることは別です
- 離婚成立後に合意書を作る場合は、作成日の記載が終期を左右します
養育費の取り決め、離婚協議書や公正証書の作成、既に取り決めた養育費の回収について、当事務所では弁護士・行政書士として一つの窓口でお受けしています。外国籍の配偶者との事案も取り扱っています。初回30分のご相談は無料です。
英語でお読みになりたい方には、同じ改正について英語で書いた記事があります。Child Support in Japan After Divorce: What Changed on 1 April 2026
この記事で触れた民法の条文は、e-Gov法令検索でご確認いただけます。個別の事案についての判断は、事情を伺ったうえでのご相談となります。








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