離婚するときに住宅ローンがある家をどうするかは、夫婦間で大きな問題になります。住宅ローンの残債はどちらが負担するのか?家の所有権はどちらに帰属するのか?家を売却して分配するのか?など、この問題は、離婚の原因や収入の差、子どもの親権など、さまざまな要素に影響されます。また、住宅の分与は単に財産を分けるということではなく離婚後の生活にも大きく関わってきます。そのため、夫婦で話し合って納得できる解決策を見つけることが重要です。しかし、話し合いだけでは解決できない場合もあります。そんなときは、専門家の助言や法的な手続きを利用することも考えられます。 今回は財産分与の中でも重要な住宅をどうするかについて、詳しく解説していきます。
この記事を読んでわかること
- 住宅ローンの状況の調べ方
- アンダーローンとオバーローンについて
- ローンのある住宅の処分方法
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佐々木 裕介(弁護士・行政書士)
「失敗しない子連れ離婚」をテーマに各種メディア、SNS等で発信している現役弁護士。離婚の相談件数は年間200件超。協議離婚や調停離婚、養育費回収など、離婚に関する総合的な法律サービスを提供するチャイルドサポート法律事務所・行政書士事務所を運営。
住宅の状況確認をする
離婚時住宅を分与するときにまず必要なことは、契約状況の確認です。以下の契約内容を確認しましょう。
ローンの名義人(債務者)
ローンの名義人とは、住宅ローンの契約者であり、返済義務を負う人のことです。住宅ローンには、一人だけが名義人になる単独名義と、二人以上が名義人になる共同名義があります。住宅ローンの名義人は、契約書や借入証明書などで確認することができます。名義人になっている場合、離婚しても住宅ローンの支払いを止めることはできません。離婚後も継続して住宅ローンを支払っていく必要があります。 離婚時に住宅ローンをどうするかを考える前に、まずは夫と妻のどちらが名義人になっているのかを正確に確認しましょう。それによって、選択できる方法や手続きが変わってきます。
連帯保証人になっていないか?
住宅ローンの名義人でない場合でも、連帯保証人として契約していた場合は、離婚後も住宅ローンの支払いに関わることになります。連帯保証人とは、名義人が住宅ローンの支払いを滞納した場合に、代わりに支払う義務を負う人のことです。連帯保証人になっていると、住宅ローンの支払いが終わるまで、名義人と同じ責任を負います。 配偶者が名義人の場合でも、自分が連帯保証人になっていないかを確認することが必要です。連帯保証人になっている場合は、離婚後も住宅ローンの支払いを続けるか、名義人と話し合って連帯保証人から外れる方法を探すか、住宅を売却してローンを完済するかなど、対策を考える必要があります。
住宅ローン残高を調べる
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ローンのことは夫がすべて行っていたから、残高などはわからないのだけど・・・
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財産分与にかかわることですので、ローンの残高などはご自身で把握するよう努めてください。調べ方はいくつかの方法がありますよ。
住宅ローンの残高とは、住宅ローンを借りた時点から現在までに返済した金額を差し引いた、まだ返済しなければならない金額のことです。現状ローンがどのぐらい残っているのか確認することも大切です。ローンの残りいくらなのかは以下のような方法で知ることができます。
契約当初に郵送されてきた返済予定表
住宅ローンを契約した金融機関から最初に郵送されてきた返済予定表を見ることです。 住宅ローンを契約した際には、返済が始まる前か始まった直後に、金融機関から返済予定表が送られてきます。返済予定表には、毎月の返済額やボーナス返済額、返済期間や利息など、住宅ローンの返済に関する詳細な情報が記載されています。返済予定表を見れば、返済が終わるまでにどのくらいの金額を支払うことになるのか、また、任意の時点での残高を計算することもできます。
確定申告用に送られてくる残高証明書
住宅ローンの残高を確認するもう一つの方法は、確定申告用に金融機関から郵送されてくる残高証明書を見ることです。残高証明書とは、住宅ローンの残高や利息などを証明する書類で、年末調整や確定申告の際に住宅ローン控除を受けるために必要な書類です。残高証明書は、住宅ローンを契約した金融機関から毎年10月下旬頃に郵送されます。残高証明書を見れば、その年の住宅ローンの残高や利息を正確に知ることができます。 残高証明書を紛失した場合は、金融機関の窓口で再発行を依頼することができます。しかし、再発行には通帳や実印、本人確認書類などの準備が必要で、発行手数料がかかる金融機関がほとんどです。
借り入れた金融機関に確認
住宅ローンの残高を確認する3つ目の方法は、住宅ローンを契約した金融機関の窓口で残高証明書を発行してもらうことです。しかし、この方法にはいくつかの難点があります。まず、最寄りの駅に店舗がなかったり、仕事などで営業時間内に行くことが難しい場合は、窓口で残高証明書を発行してもらうことができません。また、残高証明書の発行には通帳や実印、本人確認書類などの準備が必要で、発行手数料がかかる金融機関がほとんどです。そのため、残高証明書を発行してもらう方法は、手間や費用がかかる方法でもあります。
インターネットバンキングサービスを利用する
住宅ローンの残高を確認する4つ目の方法は、インターネットバンキングサービスを利用することです。インターネット上で金融機関が提供するサービスをインターネットバンキングサービスといいます。このサービスを利用すれば、住宅ローンを契約した金融機関のWebサイトにアクセスして、住宅ローンの残高や返済状況などを確認できます。この方法は、インターネット環境があれば時間や場所を選ばずに確認できるという利点があります。しかし、この方法を利用するには、事前に金融機関に申し込みや登録などの手続きを行う必要があります。
不動産の価値を査定する
現在のローン残高が分かったら次に不動産の価値を調べます。不動産の価値を知る方法としては以下のような方法があります。
不動産鑑定士に依頼する
不動産鑑定士とは、不動産の価値を専門的に判断する人のことです。不動産の価値を正確に知りたい場合は、不動産鑑定士に鑑定を依頼するのが最善の方法です。不動産鑑定士に鑑定を依頼するには、費用がかかりますが、資金的に余裕があるなら、不動産鑑定士に依頼することをおすすめします。
インターネット上の売却査定サイトを利用する
インターネット上には、不動産の価値を簡単に知ることができる売却査定サイトがあります。売却査定サイトとは、不動産の所在地や面積、築年数などの情報を入力することで、不動産の売却価格の目安を教えてくれるサイトのことです。不動産の売却査定サイトを利用するには、「不動産 売却」などと検索すると、多くのサイトが見つかります。売却査定サイトを利用することで、不動産の価値を手軽に知ることができます。
不動産業者に訪問査定を依頼する
不動産の価値を正確に知るためには、大手の不動産業者に自宅に来てもらって査定してもらう方法もあります。査定書には、不動産の価格や評価ポイントなどが記載されています。不動産の価値をより正確に知るためには、複数の不動産業者に査定してもらって、その平均値を算出するという方法もあります。
アンダーローンとオーバーローン
ローン残高と不動産の評価額を知ることができたら、自宅の不動産がアンダーローンなのか、オーバーローンなのかを判断することができます。ローンがアンダーローンかオーバーローンかどちらなのかは、住宅の財産分与に大きく関わってきます。
アンダーローン
アンダーローンとは、不動産の評価額がローン残高よりも高い状態のことです。不動産の評価額がローン残高よりも高い場合は、不動産を売却することができます。不動産を売却してローンを完済した後に、余ったお金は、夫婦で協議して分配することになります。
オーバーローン
オーバーローンとは、不動産の評価額がローン残高よりも低い状態のことです。オーバーローンとは、不動産の価値がこの場合、不動産を売却してもローンを完済することができません。そのため、離婚後もローンの支払いに責任を持つ債務者や保証人が必要になります。
離婚後の住宅処分方法
不動産がアンダーローンなのか、オーバーローンなのかを判断できたら、いよいよ不動産の処分について考えます。処分の方法をいくつかのパターンに分けて解説していきます。
売却する
不動産を売却して住宅ローンを返済する方法は、アンダーローンとオーバーローンとの場合とで変わります。アンダーローンとオーバーローンでは、財産分与や税金などにも影響があります。以下に、それぞれの場合の詳細を説明します。
アンダーローンの場合
アンダーローンの場合は、不動産を売却すればローンを完済できるので、離婚後には支払いが残りません。通常の市場における売却が可能です。売却金でローンを完済して残ったお金は、夫婦で分配します。ただし、不動産を売って利益が出た場合、譲渡所得税という税金を支払わなければならない場合があります。譲渡所得税は、不動産の売却価格から取得価格や費用などを差し引いた利益にかかる税金です。
オーバーローンの場合
オーバーローンの場合は、不動産を売却しても住宅ローンを完済できないので、離婚後も債務者や保証人が支払いをしなければなりません。売却手続きもアンダーローンのケースと異なり、所有者が勝手に売ってはなりません。金融機関と連携して売却をする「任意売却」という方法をとる必要があります。任意売却とは、金融機関の許可を得て、不動産を市場価格よりも安く売ることです。
名義人が住み続ける
そのまま不動産に住み続ける場合でも、アンダーローンとオーバーローンでは対応が異なりますので注意が必要です。ただし、ローン残高に関しては、住み続ける名義人が払い続けます。
アンダーローンの場合
アンダーローンの場合は、不動産の価値がローン残高よりも高いので、不動産は財産分与の対象になります。不動産を取得する配偶者は、不動産を手放す配偶者に「代償金」を支払う必要があります。「代償金」に当たる金額は、不動産の価値の半分からローン残高を引き、さらに半分にした金額です。
オーバーローンの場合
オーバーローンの場合は、財産分与の対象にはならないため、相手に金銭を支払う必要はありません。
名義人ではない方が住み続ける
次に、名義人でない方が住み続けるケースです。ケースとしてよくあるのは、名義人である夫が家を出て、名義人ではない妻が子供とともに住み続けます。子供の学校や地域との関連などを考えてこのケースを選択する方は多いと思います。このケースを例として解説します。
ローン名義を妻に変更する
不動産の所有権とローンの名義を妻に変更するという方法があります。この方法は、妻が不動産に住み続けることを希望する場合に適しています。オーバーローンの場合は、財産分与の対象とはなりませんが、アンダーローンの場合は、上記と同様に、不動産の価値の半分からローン残高を引き、さらに半分にした「代償金」を妻が夫に支払う必要があります。さらに、ローン名義変更手続きを行います。ローンの名義人の変更には、金融機関の審査が必要です。審査は、新たにローンを借りるのと同じように行われるため、妻の収入や信用状況などが問われます。妻が専業主婦である場合や非正規雇用である場合は、審査に通ることは難しいのが現実です。
名義変更しないまま妻が住み続ける
名義人を変えず妻が住み続けることもできます。この場合ローンを夫が払うケースと、妻が払うケースとに分かれます。ローンの支払いも夫が続ける場合は、一見妻は得をしているように感じるかもしれませんが、不動産を失うリスクがあります。夫が再婚したり、失業などして生活状況が変わりローンの支払いを滞納すると、不動産が差し押さえられたり、第三者に移転されたりする可能性があります。そのため、この状態で妻が不動産に住み続ける場合は、常に不安と隣合わせになります。次に、妻が払うケースは、夫のローンの支払い分を、妻が夫に「家賃」という名目で支払います。この方法であれば、妻側も夫の支払いに左右されず住み続けることができます。しかし、この場合住宅ローン控除を受けられなくなります。住宅ローンの控除は名義人が住んでいることが前提です。
不動産に関しては金額も大きく、また税金や控除なども関わってきます。専門家に相談することがお勧めです。
話し合いの方法~協議・調停・裁判~
不動産の契約やアンダーローンなのかオーバーローンなのか現在の状況が確認できたら、離婚後の方針を夫婦間で話し合わなければいけません。まずは、夫婦だけで話し合い(協議)をします。夫婦だけの話し合いでまとまれば、その内容を離婚協議書や公正証書にして終了になります。しかし、夫婦だけの話し合いでは解決できない場合もあります。そのような場合には、調停や裁判といった法的な手段を利用することになります。
調停とは、家庭裁判所に申し立てをして、裁判官や調停委員が双方の話を聞いて、合意を促す手続きです。調停は、裁判よりも手続きが簡単で費用も安く済むことがメリットです。また、調停委員が中立的な立場で双方の利害を調整してくれるので、話し合いがスムーズに進む可能性があります。調停のデメリットは調停成立まで長期間かかるということ、調停の開催が平日のみということ、双方の合意が必要であるということです。そして、調停でも話し合いがまとまらない場合は、調停は不成立となります。
裁判とは、調停が不成立になった場合や、調停を経ずに直接家庭裁判所に申し立てをして、裁判官が判決を下す手続きです。裁判は、調停よりも強制力があることがメリットです。裁判官が判決を下すと、それに従わなければなりません。裁判のデメリットは、手続きが複雑で時間も費用もかかることです。
最後に
離婚の方法や手続きは、各夫婦の事情に応じて異なりますので、一概に正しいと言えるものはありません。また、財産分与は、婚姻中に共同で築いた財産を、公正に分割することを目的としていますが、財産の内容や価値、分与の方法などについては、法律上の明確な基準がないため、容易に決められるものではありません。財産分与は、離婚後の双方の生活に大きな影響を及ぼしますので、慎重に検討し後悔のないようにしましょう。
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